創生期鳴子こけし

東京こけし友の会の〈こけし手帖・618〉(平成24年7月)に高橋五郎寄稿による鳴子古こけしの発見とその考察が掲載された。
これらのこけしは宮城県加美町上狼塚の旧家から発見されたもので、特にそのうちの三本は下の写真に示すように、確実に鳴子の作風でありながら他に類例のない形態形状をしており、貴重な研究資料となる。
製作場所、作者、その年代等確定的な判断は難しいが、高橋五郎は使われた染料等種々考察した結果、江戸末期あるいは明治極初期の作であろうと推定している。

〔右より 24.2cm、19.2cm、23.5cm(江戸末期か?)(高橋五郎)〕
発見された古こけし 〔右より 24.2cm、19.2cm、23.5cm(江戸末期か?)(高橋五郎)〕

両端の二本は肩が上に反り上がる特異な形状をしており、いわゆる細身の円筒状の胴から、雛壇に立てて飾ったような太い今日の鳴子こけしの形態に既に近づいている。

この三本のこけしについては、まだまだ研究の余地が多く残されているが、いずれもアルカイックで古風であり、鳴子こけしの創生期を偲びうるものと考えられている。

平成26年の全国こけし祭りは第60回の記念大会であり、このための特別企画として、この三本をベースとして、現代の工人たちに自分たちの夢を膨らませた「創生期の鳴子こけし」を作ってもらおうという話が高橋五郎を中心に持ち上がった。
工人たちに三本のこけしをじっくり見てもらい、写真を与えた後は自由にそれぞれのイメージで製作してもらうことになった。

平成26年9月 第60回全国こけし祭り企画展示 「創生期のこけしを通して」
平成26年9月 第60回全国こけし祭り企画展示 「創生期のこけしを通して」

全国こけし祭りの当日に間に会って出品出来た工人は、佐藤賀宏高橋武俊桜井昭寛須貝国男、柿澤是伸、早坂利成岡崎斉一、岡崎靖男等であった。
それぞれ自分の夢と解釈が加わっていて、興味ある作品群が展示された。
下の写真はその一部である。

〔右より 桜井昭寛 24.5cm、佐藤賀宏 20.0cm、高橋武敏 24.0cm(平成26年9月)(橋本正明)〕
〔右より 桜井昭寛 24.5cm、佐藤賀宏 20.0cm、高橋武俊 24.0cm(平成26年9月)(橋本正明)〕

従来の復元は、特定の工人の特定の作を写す作業が中心であったが、今回の企画のように想像力を喚起する力を持つ古品をベースとして、自分の創作意識の底部に潜む古いこけしの感覚を掘り起こしていくような復元は、一種のイメージの考古学(archaeology)であり、今後のこけしの世界を広げるために大きな可能性を秘めた試みと言える。

加美郡上狼塚

”宮城県加美郡上狼塚”]</p>