① 輪入りとは胴の部分に輪状の突起部分が入るこけしをいう。やみよ状の動く輪の付いたこけしとは異なる。こけし図版を最初に掲載した文献〈うなゐの友〉シリーズの第貮編(明治35年12月発刊)に掲載された一ノ関のこけしがオリジナルの輪入りである。
〈うなゐの友・貳編〉
奥州一の関の手遊ひこけし這子又おぼこといふ
〈うなゐの友〉の輪入りは肩に角ばった突起があり、さらに胴の上中下に輪状の突起が付いている。胴の輪の上下には菊の紋章ののような花模様が描かれている。
作者は不詳である。宮本一家ではないかと言われたこともあるが、宮本惣七、永吉で輪入りのものは見たことがない。
ところで仙台の高橋胞吉も輪入りこけしを作ったことがある。胞吉の輪入りを見て、胞吉や古い作並で輪入りが作られていたと議論する人もあるが、これは誤りである。
仙台の天江富弥が〈うなゐの友〉を見せたところ、「こんなものなら自分にだって挽ける」と言って即座に輪入りを作ったそうだ〈こけし異報・2〉。下に掲げた写真の右(鹿間旧蔵)を見ると、胞吉が意識的に〈うなゐの友〉の一ノ関を写したものであることは明白である。頭部を黒く塗った描法、鼻の描き方など胞吉の通常のものとは異なり、一ノ関のこけしの写しである。一時、桜井玩具店で売られたらしい。後の胞吉はこの輪入りを自分の型の一つとして、左(らっここれくしょん)のように、通常の直胴にも輪を入れることがあった。
なお、脇本三十郎も、輪はなく、輪の位置に帯を入れたものであるが、この〈うなゐの友〉の一ノ関をまねたと思われるこけしを作った。
〈うなゐの友〉の一ノ関輪入りこけしは当時かなり人気があったもののようで、西沢笛畝の色紙絵などにも、これを写したと思われるものがいくつかある。
高橋胞吉の輪入りこけし
右 鹿間時夫旧蔵 左 らっここれくしょん
木地職人は非常にプライドが高いので、他の物を褒めたり感心するそぶりを見せるとすぐに自分でも挑戦を始めることがあり、これによって多くの型が伝播したり、分化し多様化することがある。胞吉の直胴ではない型、すなわち台付きのくびれ型も他のこけしからの影響である可能性がある。
② おしゃぶり状のやみよの胴の部分に動く輪を入れたものがある。この手法を使って、こけしの胴の部分に輪状のものを削り残して、動くようにしたものを「やみよこけし」というが、これを輪入りと呼ぶこともある。遠刈田系の工人がよく作る。こけしと木地玩具の中間的なものである。