伊藤常治(いとうつねはる:1906~1982)
系統:木地山系
師匠:伊藤政治/伊藤兵太郎
弟子:高橋久宗/高橋貞助
〔人物〕 明治39年7月21日、秋田県雄勝郡皆瀬村小安温泉の農業伊藤政治・キサの二男に生まれる。、兄兵太郎の上に養子儀一郎がいる。小学校卒業後、営林署に勤務した。
伊藤家は農業および旅館業の傍ら木地業も営んでいたようで、父と兄兵太郎について木地修業した。昭和8年3月に義兄の儀一郎が没した後、昭和10年頃蒐集家石井眞之助に請われて儀一郎の作った滝の原こけしを真似たこけしを作った。その後収集家からこけしの注文も受けたが営林署勤めの傍ら製作であったので製作数は多くはない。昭和44年の小安大火に被災、一時ほとんど製作は中止していたが昭和47年くらいから再開した。佐々木春男は昭和45年頃、伊藤常治のこけしを参考にしながらこけし製作を始めた。また、皆瀬村村長だった小南三郎の奨励もあって昭和48年に皆瀬村羽場の高橋久宗、高橋貞助にこけし製作の指導を行なった。
昭和57年1月1日没、行年77歳。
〔作品〕蒐集家石井眞之助の依頼により昭和10年の旧正月よりこけしの製作を始めた。初出の文献は昭和11年3月刊行の〈木形子異報・9〉であり、大小6本のこけしとえじこの写真が、他の新発見工人とともに石井眞之助により紹介された。
〈木形子異報・9〉で石井眞之助により紹介された新工人
左端の大1本、小5本、えじこが伊藤常治の作(昭和10年の旧正月)
下掲の深沢コレクション6寸3分は、上掲写真6本の常治のうちの右端のこけしであり、石井眞之助から深沢要に譲られたものであろう。このときの作品からは儀一郎の余韻も幾分感じられた。
〔17.0cm(昭和10年)(日本こけし館)〕 深沢コレクション
下掲も同様の作で、おそらく〈木形子異報・9〉写真6本の常治のうちの右より4本目のこけしであろう。
〔16.8cm(昭和10年)(沼倉孝彦)〕
当初のこけしは儀一郎を忠実に写していたが、次第に自分の作風に落ち着いていった。表情は童顔で、胴模様は顔料を用い輪郭線はきっちりと描かれる。
〔右より 24.0cm (昭和16年頃)、30.3cm(昭和28年)(高井佐寿)〕
〔伝統〕木地山系 義兄の伊藤儀一郎の型を継承した。
〔参考〕
- 小川一雄;伊藤常治のこけし〈こけし手帖・515〉(平成15年12月)
- JETLINK Blog:伊藤常治