こけし蒐集家の深沢要が、昭和9年より昭和21年にかけて収集したこけしのコレクション。深沢要の没後、欣未亡人の手により昭和28年11月鳴子町へ寄贈された。
寄贈され鳴子に着いた深沢コレクション(昭和28年)
出迎えた工人たちには高橋武男、大沼誓、大沼新兵衛、後藤希三、岡崎斉司、桜井昭二等の顔が見える
当初は鳴子町役場2階に保管陳列されていた。昭和32年東京こけし友の会の事業として、コレクション目録の作成が行われ〈こけし手帖14・15〉の付録として公表された。ただし、後の整理の結果、現在ではこの目録の番号と実物が必ずしも一致しておらず、またその後の調査で作者名等修正されたものもある。
昭和50年、鳴子町に「日本こけし館」が完成、9月6日に落成式典が行われ、深沢コレクションのこけしもここに飾られることになった。保存と鑑賞の環境は格段に向上した。ただ、開館当初はきちんとした学芸員もおらず、陳列方法も体系化されていなかったので若い蒐集家が勉強する場としては必ずしも万全ではなかった。しかし、近年は高橋ゆきえ館員はじめ熱心な管理者が、コレクションリストの再整理とそれに基づいた陳列を行うようになったので、鑑賞・研究の場としても最高最適な環境となっている。現在のコレクションリストでは、こけし総数539本、いづめこ12個、その他こけし応用品、黒こけし、参考こけし等で合計594点である。
深沢要は鑑賞家であると同時に研究家 でもあり、コレクション内容もそれを反映 して、名物級のこけしとともに資料的価値 の高いものが多い。当時、脚で現地を探求 した収集家は深沢要を除けばきわめて少 なく、したがってこのコレクションには珍品や稀品も多い。内容の一部は〈こけしの美〉〈こけし鑑賞〉〈こけしの微笑〉〈古作図譜〉など多くの本に紹介されている。
昭和42年10月には東京小田急百貨店で展示され、また昭和53年に神奈川県立博物館で開催された「こけし古名品展」にも出品されて、愛好家に古品と接する機会を与えてきた。
系統別では鳴子系が最も充実しており、反対に土湯系はそれほど多くはない。深沢要の好みの表れでもあろう。
ここに深沢コレクション飛び切りの名品10選を写真で紹介しよう。この写真を見ながら日本こけし館の会場をまわり、実物を前に工人名を確認しながら鑑賞して欲しい。
また、稀品には根本与市・平瀬貞吉・猪狩庄平・小松利意・佐竹林之助・吉田仁一郎・菅原宗治・福田良助などがある。資料としては作者不明の古こけし群・佐藤善七・佐藤留治・伊藤儀一郎の黒こけし・杉原浩などが特に貴重である。
他では見ることのできない工人のこけしもいくつかある。現在では、この貴重なコレクションは深沢要が望んだように多くの愛好家に開かれており、「日本こけし館」はその研究・鑑賞の場となっている。