小林倉治

小林倉治(こばやしくらじ:1845~1918)

系統:作並系

師匠:南條徳右衛門

弟子:小林倉吉/笹沼兼吉/小林吉兵衛/小林吉太郎/小林吉三郎/神尾長三郎/鈴木米太郎

〔人物〕弘化2年11月23日、山形市旅籠町の紅屋清蔵の二男としてに生まれる。実家は本来小林姓であったが旧城主最上家と因縁のある小林姓は使いづらく、屋号で名乗っていたらしい。祖父は塩肴漬物商で鹽屋、父清蔵は紅花商を営み、紅屋と号した。また一説によると小林という旅籠屋を開業しており、倉治はこの旅籠屋の生まれともいう。母は肴町の佐々木家の出身。長兄忠吉は菓子商を営んだ。
嘉永3年6歳のときに父清蔵は江戸で死亡、母は寺町で再婚したため、父の義弟(川上克剛の調査によると母の妹の婚家)にあたる八日町の尾原家にひき取られた。尾原家は酒造業をやり、通称よどやと言った。よどやでは倉治は小僧として働いた。
倉治は万延元年16歳で作並温泉へ木地修業に行った。作並では箱根から来た南條徳右衛門について木地を学んだ。岩松直助は兄弟子であるが又師匠でもあって実際の指導は直助から受けたと思われる。愛子の小松藤右衛門も兄弟子である。
なお〈鴻・3〉には、倉治は南条九十治の養子となったという記述があるが、確かではない。一説には南城徳右衛門の別称が九十治だといい、また一説には倉治が作並にいる間に南條徳右衛門の養子となって南條九十治と名乗ったという解釈がある(⇒小林家記録書)。いづれにしても戸籍法以前の話で確認はできない。
倉治の木地の技術は大変優れていたので、仙台公より二人扶持で抱えられ、五重塔の風鈴や殿様好みの風鈴なども挽いたらしい。木で作った風鈴なのに風が吹くとリンリンと鳴ったという〈鴻・3〉。
慶応2年22歳まで作並で木地を修業し、山形に帰った。後年倉治が七男吉三郎に語ったところによれば、この作並時代には玩具も作り、草木を煮て色粉を作り、玩具類に用いたという。
一時尾原家や寺町の実母の所に落ち着いたが、明治元年ころ木地業を開業し、戊辰の役に際し木製弾頭を挽いた。このころから小林姓を名乗ることができるようになった。明治維新により小林姓を名乗ることに差し障りがなくなったからである。
明治2年に北村山郡沼沢村の森谷シユンと結婚、旅籠町に新居を構えた。ここで長男倉吉と二男兼吉が生まれた。明治8年ころ八日町に移り吉兵衛が生まれた。
明治10年に竣工した山形県庁舎や明治11年に開設された済生館の階段の手摺や擬宝珠は倉治が挽いたといわれる。山形県庁は残念ながら明治44年の大火で焼失。現在国の重要文化財になっている山形県旧庁舎(文翔館)は大正5年に再建されたもの。一方、明治11年に着工落成した済生館は類焼をまぬがれ、現在は霞城公園内に移築されて山形市郷土館として現存している。その階段の手摺の一部には倉治の挽いたものが残っているかもしれない。

明治10年ころ十日町に移り、同11年に神尾長三郎と奥山安治が入門、同12年には吉太郎が、同14年には吉治が生まれた。
明治15年ころ六日町に移り、同年鈴木米太郎が入門。このころには木地玩具を北国屋という問屋に卸した。明治20年ころさらに旅龍町に移り、吉三郎が生まれた。小林家はこのころから県庁の近くの勧工場に店を持っており、こけし等木地玩具はここで売られた。温泉地ではない山形市内でこけし等の玩具が発展したのは縁日のように賑わう勧工場が常設されたことに一因がある。
明治24年、阿部常松が一人挽ロクロを伝え、小物の能率が上がるようになり、こけし等が盛んに作られるようになったが、倉治は最後まで二人挽きロクロを通した。
明治26年作並時代の兄弟子岩松直助の一家が娘つるを残して皆亡くなってしまったので、つるを引き取って養女とした。やがてつるは作並の平賀太五郎(謙蔵の父)の後妻となった。
明治33年工場一切を長男倉吉にまかせ隠居した。しかし薄荷入れ専門になる明治38年まではこけしの描彩をうけもち、息子たちの木地に盛んに描き、勧工場の店や初市等で売った。明治44年5月の北の大火で焼け出され、長年住みなれた旅籠町から、六日町の新築西通に移った。大正7年12月23日没。行年79歳。

小林倉治

〔作品〕作品は未確認である 。作並から継承した細い直胴に花模様のシンプルなこけしを作っていたと思われる。今野新四郎作と推定されるこけしに近いものであったろう。

〔伝統〕作並系 終生二人挽きであったというから、明治24年阿部常松が一人挽きを伝えて以後のロクロ線や涎掛け状の波線を加える新趣向の山形系こけしを作ったかどうかわからない。一人挽きが伝えられたことにより山形系が分化する前のシンプルなこけしを倉治が作り続けていたのであれば作並系である。

〔参考〕

  • 山形風影
  • 勧工場
  • 近松義昭:小林倉治と南城徳右衛門〈こけし手帖・696〉(平成31年1月)
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