乙字模様

秋保の菅原庄七およびその系譜の工人がつくるこけしの頭頂に描かれる「乙」の字様の装飾。
この装飾の由来について橘文策は〈こけしの魅力〉に下記のように記述している。

「秋保こけしの頭の頂辺には、乙の字が緑鮮やかに描きこまれている。土地の作者管原庄七にそのいわれを問い合せてみたところ、最初は、単なる装飾で意昧なしという、至極あっさりとした返事をよこしたのであったが、その後訪問した折、これを確めてみると、立派な由来があったのである。

秋保頭頂の「乙」字

その昔藩主が二本のこけしを作らせて、各頭の頂辺に赤い乙宇を書きこみ、一本は子供の厄を負わせて川に流し、他の一本は虫除けとして子供に弄ばせて、その子よく育ち、後世名をなしたというので、世間一般にこの風習が広まることになった。然し、往年の庶民階級ては、二本のこけしを買って、一本を川に旅すなど不経済なことは永続せず、といって可愛い子供のためには、買ってやらないのも不安だし、結局一本だけ買って、これを大切に弄ばせることにした。今日の乙の字は、木地屋が製作の序に書き込んでおくので、赤字が緑字に変っている。それはこのこけしの頭飾りが赤色で、華々しく描かれているので、配色の美しさから緑色に変わったのではなかろうか。従って、今日では、伝説通りの御利益があるか、どうか保証の限りでない。」

しかし、古い庄七の頭頂を見ると必ずしも乙の字のように描かれては居らず、むしろ「二」の字のように緑の短線が二本描かれているものが多い。この二本を続け字のように描いたものがたまたま「乙」のように見えたことから上記のような俗説が生まれたものと思われる。「単なる装飾で意味なし」という最初の答えが真相であろう。

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