趣味のこけし展(東京)

昭和29年4月13日から18日まで、東京日本橋の三越百貨店において東京こけし友の会が企画して開催されたこけし展。

趣味のこけし展 案内状

下記は〈こけし友の會だより・8・9号〉に載った趣味のこけし展報告「こけし展だより」。

 友の会主催の趣味のこけし展は予告の通り四月十三日から十八日まで、東京日本橋三越本店で開催。友の会幹事は一月以来この企画に専念し、三越との交渉、陳列品の選択、製作実演者の招聘、即売品の註文などに努力をつづけましたが、幸に三越宣伝部の理解と、会員各位及び産地の工人諸氏の御支援とによって、初日以来、連日の盛況をつづけ、予期以上の好評裡に終了することができました。特に会友武井武雄画伯からは四月十七日の記念座談会の席上で、こけし界空前の成功だと激賞していただき、関係者一同感銘を深くした次第でありました。
 まづ会場の概況を述べますと、大別して、こけしの陳列、文献の陳列、参考品の陳列、製作の実演、こけし及び応用品の即売の五つに分けて計画されました。
 いうまでもたく、今回のこけし展は、東北地方に伝承されだ固有のこけしを紹介し、戦後に於ける新型こけしとの混同及びこけしの美に対ずる認識の不足を是正することを主眼としましたので、これ等の陳列、即売、実演を通じ一切の新型こけしを除外しました。
 次に各部門について各論的に述べまりと、こけしの陣列は細分して、名工の作品陳列、産地別陳列、系統別陳列、こけし群像の四部に分け各部を独立的に陳列しました。本数は四部を通じて約二千本で、在京会員の所蔵品中から秀作と目されるものを選技しましたから、内容的には相当自負して差支ないものであったと思います。
 文献の方も、ささやかな冊子に至るまで網羅陣列しましたので、その多種に及んでいることで驚きを感じた来会者も少くなかったようです。壁面に掲げた武井画伯のこけし版画(愛蔵こけし図譜)に対し再版を要望する声も少くなかったようです。
 こけし製作の実演は鳴子の長老高橋盛岡崎斉両氏により会期中連日行われました。勤カロクロと足踏ロクロ二台を備えて、前者は主として高橋氏によって、後者は主として岡崎氏によって行われ、非常な人気を呼んで、その製品は奪い合いの状況でした。また、鳴子の高橋武男、岡崎斉司の両氏も連日会場にいて実演その他について非常に骨を折って下さったことは、実演の方はもとより現地鳴子木地玩具組合の御斡旋を心から謝すものであります。
 参考品では手挽ロクロが珍らしく、今日では工人の手元にも少くなっているものです。
 即売は実演と同様に非常な人気でした。即売こけしの出品者は四十五名の多きに及び、初日に全部売切れたものもあった程です。概して六、七、ハ寸ところが多く出たようです。応用品はこけし絵を型染にしたゆかた、手拭、のれん、千代紙の外に、版画千代紙、版画エハガキ、板しおり等多種に及び何れも好評で、外人の買手も見受けられました。なお、鹿間時夫氏の新著 〈こけし・人・風土〉も会期中装本が間に合い会場で希望者に頒布されました。
 友の会では〈こけし展解説〉と題したパンフレツトを編集刊行し、会場で実費頒布しました。
 会期中にどの位の人が来会されたか判りませんが、丁度会期を同じくして、肉筆浮世絵展アジヤ人形文化展等が開催されていた関係もあつて、連日文字通りの雑踏を極めました。おそらく短期日に、こけしがこれだけ多数の人の目にふれたことも空前であつたろうと思われます。
 特に仙台こけし会から天江富弥氏、立川武雄氏、鈴木清氏の御来会を頂いた他、各地から祝電を寄せられて、一同の感激を深くしました。
 新聞では毎日新聞、東京新聞、河北新報(仙台)などが会期中に写真入りでこけし展の記事を掲げましたが、この外にも新聞雑誌からの撮影の申し込みは多数ありました。この点から考えますとジヤーナリズムに対する刺戟も相当にあつたろうと思われます。

下掲は会場で販売された三枚セットの版画エハガキで前川千帆(栄治と三蔵)、関野準一郎(周助と久四郎)、武井武雄(胞吉と南部)の3枚セットであった。

版画エハガキ

鹿間時夫著 〈こけし・人・風土〉が間に合って会場で頒布されたが、下掲は会場に置かれたそのパンフレット。

〈こけし・人・風土〉のパンフレット

古作こけしの出品者は、名和好子、水谷泰永、加賀山昇次、鹿間時夫、西田峯吉。今村春男、武田利一、石井眞之助、土橋慶三、飯田莫哀、今村秀太郎であった。出品されたこけしの胴底には鳥居敬一の切り絵による緑のレッテルが貼られた。この時には蔵王高湯の仙台屋に伝わった岡崎栄治郎も出品されたが、作者名の鑑別が進む以前であり、岡崎栄作名義であった。
新作の即売も行われ、42名の工人の作が出品された。


岡崎栄作名義で陳列された栄治郎 〈こけし展解説〉より


陳列作 〈こけし展解説〉より

展示品にはこけしの他に、こけしの文献、木地屋に関する文献、こけし応用品(ゆかた、うちわ、のれん、手拭い、版画等)、参考品(木地屋文書・鑑札、ロクロおよび工具)などがあった。

1000部限定で会場で販売された東京こけし友の会編〈こけし展解説〉は、こけし展の趣旨、こけしに寄せる、こけしの系統、こけしの産地と工人名、こけし展陳列品目録等の記事が掲載され、昭和29年時点ではよく整理された解説であった。


趣味とこけし展 パンフレット〈こけし展解説〉(昭和29年4月)


「こけし展だより」の報告を載せた〈こけし友の會だより・8、9号〉(昭和29年5月)

高橋武男、岡崎斉司による実演も好評で、来場者も多く非常に成功した催しであった。
戦後、多くの人たちの生活もようやく安定を取り戻しつつあった時期で、趣味にも目を向ける余裕が生まれた状況であり、この催しによって生まれた熱気によって次に続く「こけしブーム」への素地が作られたといっても良い。

なお、この「趣味のこけし展」はひきつづき神戸の三越でも昭和29年5月1日より6日まで開催された。古作こけしは一部在京蒐集家のもの、主には米浪庄弌蔵品が展示された。神戸では高橋盛と高橋正吾が実演を行った。

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