娯美会

ごみかい

大正末期から昭和の初めにかけて大阪を中心に趣味人が集まった会。
東京には、三田平凡寺が中心になって結成した趣味の集まり「我楽他宗」があったが、関西にもそれに刺激を受けた「浪華趣味道楽宗三十三所」という集まりが出来た。娯美会はその中の仲の良い一部の人たちが集まったもの。例え他の人にはゴミのように見えようとも、自分たちはそれを集めて楽しむということから娯美会という名がついたという。
川崎巨泉は「我大阪の土地に浪華道楽宗と言ふ趣味家の大団体があつて、毎年一回づヽ旧道楽宗、新道楽宗、第三道楽宗と三つの小団体が思い思いの趣考をこらして催しものをやつてゐと言ふ事は皆様も御存知の通りでありませうが、其旧道楽宗の或る一部の人々に依って組織されているものに、娯美会なるものが有ります ~ 土俗会も娯美会も幾久しく末永く続いて行くようにと祈っております」と「浪華の娯美会と土俗会」〈鳩笛・4 号〉(大正14年6月)に書いていた。また「我大阪には無邪気な趣味団体として娯美会なるものがある。既に本年五月を以て第五十四回まで続けられてゐる。自分も其一員として末席を穢すの光栄に浴し毎回出席して諸君の佳話珍談を拝聴する事をこよなき楽しみとしてゐる、と申上るとなんだか真面目な研究会のようにも思はれるが、実は雲泥の違ひで只訳もなく笑ってしまふ位ひが此会の主意である。還暦の親父もニキビ男も打ち交って互に面白おかしく話すので其処に何とも言へぬ暖かい友情と言ふものが涌いて来るのである。(中略) 会員の一人は言ふ、よくも続いたものだと、其れは其筈である。みんなの意気がピッタリと合って其処に少しのすきまをも見出さないからだ。金、金、金がなんでそんない有難い金より有難いものは即ち友情である事を忘れてはならない。」と〈人魚・6 号〉(昭和2年6月)の「娯美の事ども」と題して書いている。

主なメンバーとその趣味の対象は次の通り。
川崎巨泉(末吉・画家) :  人魚
濱べにや(屋号「木綿屋」) :  絵馬
三好米吉 (古書籍商「柳屋書店」「柳屋画廊」) :  顔面に関する短冊
三宅吉之助 (宇津保文庫主宰) :  時代櫛
田中緑紅 (俊次・京都の郷土史家) :  桃太郎に関する物
太田小宝 (健二郎) :  福袋と守小判
木戸解剣 (忠太郎・木戸孝允の養子): 各地達磨起上り(京都木戸孝允旧邸・達磨堂に収蔵)
筒井英雄 (写真館ワンダース館経営、筒井郷玩店で玩具を販売) :  外国玩具
木村旦水 (助次郎・古書店兼出版社だるまやの経営者) :  名家肉筆達磨絵葉書
梅谷紫翠 (秀文・歯科医) :  玩具の天神
穐村吐陽 (治郎兵衛・針金問屋の若旦那) :  各地変形盃
井崎一蝶 (亥三郎・風雨屋の一蝶さん・劇画家) :  劇人形
芳本蔵多楼 (倉太郎・京阪電鉄) 玩具、絵葉書、川柳
粕井豊誠 (信一・画家) :  伏見人形
青山一歩人 (冬樹・会社員) :  社寺及び土産杓子
岸本水府 (龍郎・寿屋から江崎グリコに移って広告を担当。川柳作家) :  福助に関する物
三浦おいろ (黒田常太郎) :  劇に関する双六
村松百兎庵(茂・大阪國文社) : 兎の玩具、年賀状、土鈴
青賢肇 (青木賢肇・大阪朝日新聞社の調査部 苔瓦堂日録) :  神仏御影
高橋好劇 (染物業) :  小品玩具と百面相
本田渓花坊 (敬之助・川柳作家) :  川柳古書画
河本紫香 (正次・傘商) :  伝説玩具の牛
中西竹山 (康雄・食料品商) :  各地旅館カード
西田静波 (清次郎、亀楽洞・棕梠商) :  亀の玩具、納札

この中で郷土玩具やこけしの蒐集家としても知られるのは、川崎巨泉、筒井英雄、梅谷紫翠、青山一歩人、河本紫香、西田静波、村松百兎庵、粕井豊誠など。その中でまた「やつで会」を作って活動を継続するものもいた。

こうした蒐集家のこけしは昭和10年代から戦後にかけて開かれた入札会に出たものが多い。

写真は『大阪人』2005 年2 月号より転載
写真は〈大阪人〉2005 年2 月号より転載

1929(昭和4)年1月19日、昭和天皇の御大典を祝して四天王寺公園内の小宝に集合、「娯美会奉祝変装余興」。

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