吉田木工所

〈東北の玩具〉(仙薹鐡道局編纂)(初版:昭和13年、再版:昭和14年)の巻末には「こけし這子製作地一覧表」が載っている。この一覧表には、盛岡の項の製作者として安保木地工場に加えて、吉田木工所の名がある。その住所を盛岡市本町とした上で、「キナキナ坊の製作者なるが、目下製作中止の趣、近く再製作に着手するという」という記事が添えられている。
古い蒐集家のコレクションの中には、しばしば「吉田木工所」と記入のあるキナキナが存在する。下の写真は石井眞之助旧蔵のキナキナであり、胴底に「吉田作 盛岡キナキナボッコ」の書き込みがある。典型的な南部のキナキナの形態に、肩の上部と胴裾に3本づつのカンナによるロクロ線の溝を付けているのが特徴である。キナキナとしては趣向もあって佳品である。
作者は寺沢政吉の長男省一郎と思われる。〈東北の玩具〉には「近く再製作に着手する」と書かれていたが、省一郎はその後、県の工芸指導所教官となって一生を終えたので、吉田木工所のキナキナ製作は昭和10年ころまでであったろう。現存する数は必ずしも多くはなく、蒐集家に渡った作品数もおそらく限定的であったろう。
橘文策の〈こけしざんまい〉「こけし紀行 盛岡」には、橘がこけしを求めて盛岡市内を歩き、本町の吉田時計店でおしゃぶりを購入したという記載がある。時計店の主人が奥から持ち出した晒しの風呂敷の中に、おしゃぶりが千個以上あったとある。寸法違いで10本ほど購入したが、胴にロクロ線が入ったのを一つ見つけたとも書かれている(昭和7年)。 この吉田時計店には木工所が併設されていたから、吉田木工所と吉田時計店は同じと考えてよい。
〔10.5cm(昭和7年頃)(橋本正明)〕石井眞之助旧蔵
〔10.5cm(昭和7年頃)(橋本正明)〕石井眞之助旧蔵

胴底の書き込み
胴底の書き込み 「吉田作 盛岡キナキナボッコ」

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